浅草をいろどる日本語模様(もよう)<5> 地下鉄(ちかてつ)の初運行(はつうんこう)は上野―浅草

趣(おもむき)のある東京メトロ銀座線の浅草駅出入口

浅草をいろどる日本語模様<5>

地下鉄の初運行は上野―浅草

以前(いぜん)、「書き初(ぞ)め」について紹介(しょうかい)しました。その際(さい)、「書き初(はじ)め」とは読まないと言及(げんきゅう)しました。

「初」は【「はじ」め】【「そ」める】【はつ】【うい】【うぶ】【しょ】など、読み方(かた)が幾(いく)つもあります。

どれが訓読(くんよ)みで、どれが音読(おんよ)みでしょうか。実は、この中で音読みは【しょ】だけです。

「初」の読み方

【訓読み】はじ(め)

     そ(める)

     はつ

     うい

     うぶ

【音読み】しょ

「初年度は年会費無料(ねんかいひむりょう)」などと言う時の「初年度」を「はつねんど」と読む人はほとんどいないと思います。「ねんど」の読み方が音読みなので、音読みで統一(とういつ)し、「しょねんど」です。

では、「初対面」はどうでしょうか。「たいめん」が音読みなので、やはり一般的(いっぱんてき)には、音読みで統一して「しょたいめん」と読むのがいいようです。

しかし、「はつたいめん」と言う人も多いのが実状(じつじょう)です。

「初体験」はどうかというと、「しょたいけん」よりも「はつたいけん」の方(ほう)が主流(しゅりゅう)のようです。「はつたいけん」(初体験)と「はつたいめん」(初対面)とで語感(ごかん)が似(に)ているからでしょうか、「しょたいめん」に対して「はつたいめん」を認(みと)める人が増えてきています。

実際(じっさい)に、音読みする二字熟語(じゅくご)に「初」を接頭語(せっとうご)として付(つ)ける場合、「しょ」と読むのは意外(いがい)に少ないのです。

仏教用語(ぶっきょうようご)の「初発心(しょほっしん)」、医学用語の「初感染(しょかんせん)」などが挙げられます。

一方、「初」を「はつ」と読むのは「初冠雪(はつかんせき)」「初挑戦(はつちょうせん)」「初参加(はつさんか)」「初演奏(はつえんそう)」などなど、限(かぎ)りない感じです。

ところで、日本におけるバーの初出店(はつしゅってん)は浅草の「神谷(かみや)バー」で今も健在(けんざい)です。浅草にはまた、電動エレベーターを初稼働(はつかどう)させた「浅草凌雲閣(りょううんかく)」もかつて聳(そび)え立っていました。

日本で地下鉄(ちかてつ)が初〈産〉声(うぶごえ)をあげ、初運行(はつうんこう)されたのは、上野―浅草間(かん)です。1927年12月、東洋初(とうようはつ)でもありました。今年で95周年となります。

東京の地下には地盤(じばん)の脆弱(ぜいじゃく)さなどの懸念(けねん)がありました。それを正確(せいかく)な地質資料(ちしつしりょう)を基(もと)に論破(ろんぱ)し、地下鉄事業(じぎょう)を推進(すいしん)したのは、早川徳次(はやかわ・のりつぐ)です。「地下鉄の父」と称(しょう)されています。

地下鉄の父・早川徳次の像(東京メトロ・銀座駅)

早川は、交通量(こうつうりょう)の調査(ちょうさ)を自(みずか)ら行(おこな)い、東京各所の市電(しでん)や馬車(ばしゃ)、自動車の数を調査しました。

東京地下鉄(東京メトロ)のホームページには、その調査の結果(けっか)を次のように記(しる)しています。

浅草から上野、銀座(ぎんざ)を経由(けいゆ)して新橋(しんばし)に至(いた)るルートが最(もっと)も交通量が多いと結論づけました。後(のち)にそのルートが、そのまま東京地下鉄道の路線(ろせん)となっていきます。

https://tokyometro-recruit.jp/company/philosophy/

ホームページには、今も受け継(つ)がれている早川の言葉も紹介されています。

いまに東京の地下は蜘蛛(くも)の巣(す)の様(よう)に地下鉄が縦横(じゅうおう)に走る時代が必(かなら)ず来る。また、そうでなければならない。

早川徳次の言葉 https://tokyometro-recruit.jp/company/philosophy/

現在、東京の地下鉄は次の13路線です。

【東京地下鉄(東京メトロ)】

 銀座線(ぎんざせん)

 丸の内線(まるのうちせん)

 日比谷線(ひびやせん)

 東西線(とうざいせん)

 千代田線(ちよだせん)

 有楽町線(ゆうらくちょうせん)

 半蔵門線(はんぞうもんせん)

 南北線(なんぼくせん)

 副都心線(ふくとしんせん)

【都営地下鉄(東京都交通局)】

 浅草線(あさくさせん)

 三田線(みたせん)

 新宿線(しんじゅくせん)

 大江戸線(おおえどせん)

まさに蜘蛛(くも)の巣(す)のように張(は)り巡(めぐ)らされた地下鉄です。それを「乗り継ぐ」(のりつぐ)人々が日々、便利(べんり)さを実感(じっかん)しています。「地下鉄の父」早川徳次(のりつぐ)の名が今の地下鉄の実体(じったい)を表(あらわ)しているようです。

浅草駅出入口越しに神谷バーが見える
国際通りに設置されているポール。かつての浅草を描いた風景画に凌雲閣も