浅草をいろどる日本語模様(もよう)<11>  背中をかじって?――方言もまるごと日本語

まるごとにっぽん。所在地はユニクロ浅草店の隣

浅草をいろどる日本語模様<11>

背中をかじって?――方言も土地言葉も まるごと日本語

日本語学習教材に『まるごと 日本のことばと文化』というテキストがあります。「国際交流基金(こくさいこうりゅうききん)オフィシャル日本語コースブック」と紹介されています。

フルカラーで見やすく、様々な日本文化を学びながら日本語が勉強できます。

「まるごと」とは、切ったり形を変えたりせず、そのままという意味です。「ミカンを皮(かわ)もむかず、まるごと食べた。」などと言います。

浅草の六区地区に「まるごとにっぽん」という2021年6月にリニューアルした土産物(みやげもの)店があります。「まるごと」と言うだけあって、日本の47都道府県からの名品がそろっています。「浅草から日本を元気に」という思いが強く感じられます。

「まるごとにっぽん」のような店舗(てんぽ)を「アンテナショップ」と言います。和製(わせい)英語です。企業(きぎょう)や自治体(じちたい)が商品や特産物(とくさんぶつ)などを宣伝・販売しながら、消費者(しょうひしゃ)の反応・動向を探(さぐ)るアンテナの役割をしたお店です。

以前、あるサイト(PlusParavi)で都内のアンテナショップの人気店ランキングが紹介されていました。10位が浅草の「まるごとにっぽん」(2020年11月に閉店した以前の施設)で、1位は銀座の「ひろしまブランドショップtau」でした。

https://plus.paravi.jp/business/005615.html

「tau」とは「たう」のことです。広島をはじめ中国地方の方言(ほうげん)で、共通語の「届(とど)く」です。背伸びをしても天井(てんじょう)に手がつかないことを、「天井に手がたわない」などと言います。

先日、千葉県出身の日本語教師と方言について、あれこれ話しました。千葉では、かゆい時に背中をかく行為を「背中をかじる」と言うらしいのです。長らく「かじる」が方言だとは知らなかったそうです。「ちょっと背中かじってくれない?」などと頼(たの)まれたら、びっくりします。夏だと、さしずめ「蚊(か)に刺されたところをそんなにかじったらダメじゃない。」と言うのでしょう。

歯でかんで砕(くだ)いたりすることが共通語の「かじる」ですが、東京の隣の千葉ですら、方言で言うと意味が異(こと)なってくるとは面白いものです。「かじる」を「かく」という意味で使う地方は他にもあります。静岡や山梨、長野でもそうらしいです。

一方、今では普通に辞書にも掲載(けいさい)されている言葉が、元は江戸言葉、すなわち江戸の方言であった語もあります。例えば「しょっぱな」。漢字で書くと「初っ端」です。「そんなことは端(はな)から分かっていた。」などと使うことがあるので、「端」(はな)は、初めのことです。つまり、「初」と「端」の二つの「はじめ」を重ねて強調しているわけです。

口承(こうしょう)文芸学者の小澤俊夫(おざわ・としお)氏は各地の昔ばなしの魅力(みりょく)を広めていますが、「方言」という言葉について、次のように私見を述べています。

昔ばなしはそれぞれ、その土地の言葉で語られてきました。いわゆる方言のことですが、わたしは方言という言葉は、中央に対する地方という発想から出ている差別語(さべつご)だと思うので使いません。土地(とち)言葉といいます。

小澤俊夫『昔話の扉(とびら)をひらこう』(暮しの手帖社)

共通語も方言も土地言葉も、まるごと日本語です。

大阪の「しんどい」に対し、東京の「かったるい」という言葉があります。どちらも、「疲れた」「体調がよくない」の意味合いです。中国地方では「えらい」となります。

今日はもうしんどくて、かったるくて、えらいので、本稿(ほんこう)はこのへんでやめておきます。