浅草をいろどる日本語模様(もよう)<9> うれしくて楽しい「ひな祭り」

浅草ビューホテルのロビーに設置されているひな人形七段飾り。最上段の左右の明かりが「ぼんぼり」

浅草観光の拠点(きょてん)である浅草ビューホテルのロビーで、この時期、来館者(らいかんしゃ)の目を引くのが、ひな人形(にんぎょう)の七段飾(かざ)りです。

一方で、今年も伝統(でんとう)の「江戸流(えどなが)しびな」が中止になりました。とても残念(ざんえん)です。

3月3日は「桃(もも)の節句(せっく)」。女児(じょじ)がいる家庭では、ひな人形を飾り、ひな祭りを行(おこな)う家族も多いでしょう。

その桃の節句に近い日曜日、隅田川(すみだがわ)では、紙のひな人形を流し、子どもたちの健(すこ)やかな成長を祈(いの)る行事(ぎょうじ)が行われてきました。2022年の今年は2月27日の予定でしたが、去年に引き続き、新型コロナウイルス拡大の影響(えいきょう)を受け、取り止めとなりました。

浅草ビューホテル

ひな祭りと言えば、童謡(どうよう)「うれしいひなまつり」が思い起こされます。作詞は浅草に縁(えん)の深いサトウハチロウです。玉川しんめい著『ぼく浅草の不良少年 サトウ・ハチロウ伝』(作品社)という評伝(ひょうでん)も出版されています。

1番の最後は、ひな祭りを「楽しい」と形容しています。

4番、すなわち全体の最後は、ひな祭りを「うれしい」と言っています。

著作権(ちょさくけん)の問題がありますので、歌詞をそのまま記載(きさい)できませんが、歌詞全体を改(あらた)めて確認(かくにん)していただければよく分かります。

「楽しい」と「うれしい」は日本語学習の最初(さいしょ)のころに勉強しますが、この違いはなかなか難しいです。

①ディズニーランドはとてもたのしいです。

②朝からディズニーランドで遊んでいます。とてもたのしいです。

③きょうディズニーランドでした。とてもたのしかったです。

④あしたディズニーランドです。(そう思うと)とてもうれしいです。

⑤彼からディズニーランドに誘(さそ)われました。とてもうれしかったです。

①は一般的(いっぱんてき)な感情(かんじょう)です。

②は継続的(けいぞく)な感情です。

③は①と比較(ひかく)して個人的(こじんてき)な感情ですが、体験(たいけん)して感じる気持ちです。

④は瞬間的(しゅんかんてき)な感情です。

⑤は個人的な感情ですが、自分の外からの刺激(しげき)に対する反応(はんのう)です。

こうしてみると、「たのしい」は、一般的、持続的な時に使えます。

対して「うれしい」は、個別的、瞬間的な時に使えます。

そして、個別的な感情でも、自分が体験し自身の内から湧(わ)き上がってくる喜びは「たのしい」と表現できます。個別的(こべつてき)な感情で、外からの反応としての喜びは「うれしい」となります。

⑥ディズニーランドで彼と遊びました。とてもたのしかったです。/うれしかったです。

⑥は彼と「ずっと」一緒にいることができたという継続的な喜びなら「たのしい」です。彼という存在が与えてくれる喜びなら「うれしい」です。

童謡「うれしいひなまつり」では、最初に、ひな祭りに対し「たのしい」と一般的に表現し、最後に、晴(は)れ姿(すがた)をした一人の女の子の喜びを「うれしい」と代弁(だいべん)したように感じます。

江戸流しびなは、東京に春を呼ぶ行事として、親(した)しまれてきました。パンデミックの冬を越(こ)えて、一日も早く世界に春の笑顔(えがお)が咲(さ)き薫(かお)ることを切望(せつぼう)しています。

そして、今夏(こんか)こそ、楽しい隅田川花火大会(はなびたいかい)が開催(かいさい)され、皆のうれしいと思う一瞬一瞬が長く続きますように、と願っています。

(仁子真裕美氏のサイト「日本語教師広場」を参照しました。https://www.tomojuku.com/blog/goi/tanoshii/)

江戸流しびなの風景(2017年2月26日、写真提供:浅草観光連盟 365ASAKUSA)